《弦レビュー》Dominant Pro/遠藤雄一さん
はじめに…
私はドミナント弦の特色を、『伸びの少なさ』と『明るく健康的な音色』だと考えている。
32年間、E線を除く各種ドミナント弦をありとあらゆる条件下で演奏してきた結果、
同弦の『新品 ~ 交換』までの間には以下のような 4段階 の【音色変化】があるという結論に達した。
先ずはその【音色変化】についての詳細を述べたいと思う。
1,第一段階 ・・・ 初日 ~ 3,4日後
溌溂とした明るい音色、悪く言えば直線的。独特の『金属的な響き』が混じるので、ドミナントと相性の合わない人達は大抵、このタイミングを嫌うのかもしれない。
因みに私はこの期間を、
ドミナントにおける【エイジング】だと捉えている。
2,第二段階 ・・・ 5日〜14日後
少々、荒削りだった音色も角が取れ、倍音が豊かに鳴り出す。
強く輝かしい音によって、楽器全体が目覚め始める。
ドミナントの魅力が最も発揮される期間。
3,第三段階 ・・・ 15日 ~ 24日後
途端に輝きが失われ、全体的にくたびれた印象となる。
この急激に音質が低下する現象もまた、初期の金属音と共にこの弦の特徴だと思う。
4,第四段階 ・・・ 25日~交換
硬く締まって味気の無い、演奏意欲の削がれる音。
指で弾いても全く余韻が無い。
と言うより、弦そのものが楽器の振動を止めてしまっている。
パフォーマンスにも影響するので、こうなる前に張り替えるべきである。
以上、【音色変化】について。
さて、 "PRO" へ話を移そう。
今回の試奏で強く印象に残った事は三点。
先ず第一に、
この "PRO" は、先に述べた初期のドミナントの特徴でもある『金属音』が劇的に減ったと思う。
これは、A・D・G線 の3弦に言える事である。
(E線は使った事が無いので比較不可)
ただ、個人的には…
これまで新しく張り替える度に【エイジング】の過程を楽しんできたという面もあるので、正直なところ拍子抜け、さらに言えば『物足りなさ』の様なものを感じた事は否めない。
しかし、例の『金属音』が大幅に減ったおかげで、この "PRO" という弦は新たな『ドミナント・ユーザー』を獲得出来るのではないだろうか。
二つ目は、音色について。
これもまた断然、丸みを帯びた柔らかい印象に変わった。
それはつまり、『金属音』を発生させる熟成期間を経ずに音色が柔らかく円やかになった、という事になる。
しかも不思議な事に、音色の《張り》は変わらず強いままなのだ。
そこで、張りの最大要因と思われる弦の【実張力】をメーカーの公式HPに掲載されているデータにて確認したところ、やはり数値は増していた。
(注・A線以外)
相反する要素を兼ね備えているという事は、当然ながら表現力の豊かさに直結する。
よってこの弦は、我々演奏家が長年切望してきた一つ理想を実現した、と言えると思う。
さらに、この柔らかな音色というのはE線に最も表れている。
何とも形容し難い微かに湿り気を帯びた独特の音色で、いわゆるE線にありがちなヒステリックな面が一切感じられない。
ただ、人によっては若干重く、または暗く感じるかもしれないが、そのへんは各々の好みであろう。
三つ目に、弦の宿命である初期段階における【伸び】について。
張り替え直後の【伸び】は我々にとって悩みの種である。
いくらナイロン弦がガットほど伸びないとは言っても、ことA線については落ち着くまでに一定期間の覚悟をせざるを得ないのが常であるが、この"PRO" という弦は…
伸びない (苦笑)
無論、チューニングを繰り返してゆく過程でペグの角度に多少の変化は見られたので全く伸びていない訳では無いのだが、今までに比べれば格段に伸びない。
私はこの件に関しては未だ、メーカー側のキャッチコピーや各種データなどに目を通していないので決定的な事は言えないが、恐らく、かなり意識して研究・開発したのだと思う。
企業努力に頭が下がる。
因みに高温多湿下における伸縮については未だ梅雨~夏季を過ごしていないゆえに未知数だが、この感じだと極端に影響される事は無いものと思われる。
以上が"PRO"の試奏リポートとなる。
最後になったが、
この"PRO"という弦は明らかに、これまでのドミナントの概念を覆し、様々な点において《進化》していると言える。
ドミナントを超えたドミナント…
超・ドミナント…
今日から私はこの弦を
【 ハイパー・ドミナント】
と呼ぶことにしよう。
以上
遠藤雄一 ヴァイオリン